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コスプレなんて、ただの布である ── ただし、キョンシーは除く

by MIKI

世の中には、女性のコスプレに並々ならぬ情熱を注ぐ男性がいる。

ナース、女教師、メイド、セーラー服。
衣装の種類によって興奮の仕方が変わるという人もいれば、特定の制服に人生を捧げている様な人もいて、実に奥深い世界が広がっているらしい。

私はM性感店のスタッフであり、同時に筋金入りのM男でもあるので、こうした男性の気持ちを理解できそうなものだが、残念ながらコスプレというものに何の思い入れもない。

── あんなもの、ただの布である。

いきなり身も蓋もない事を言ってしまったが、別にコスプレを楽しんでいる人達を馬鹿にしている訳ではない。
人間の性的嗜好など千差万別であり、他人の性癖を否定するほど野暮な事はないと思っている。

何しろ、私自身が立派な変態なのだ。
他人の性癖を笑っている場合ではない。

ただ、ナース服を着た女性を見ても診察してほしいとは思わないし、女教師の格好をされたところで、学生時代に散々嫌っていた補習授業を受けたくなる訳でもない。

ポリスの制服に至っては、そもそも逮捕される様な事をした覚えがないので、取り締まられる理由が見当たらない。

いや、存在そのものが公序良俗に反している可能性は否定できないが、それについては今後の司法判断に委ねたい。

そんな訳で、私にとってコスプレとは、女性が普段とは違う服を着ているという、それ以上でもそれ以下でもないものなのである。

ところが、困った事に当店には実に豊富なコスプレ衣装が用意されている。
そして私は、その魅力をお客様にお伝えする立場の人間でもある。
これは少々まずい。

 

◆ 可愛い女性は、何を着ても可愛い。

当店のコスプレ一覧を眺めてみる。

セーラー服、ブレザー、ナース、メイド、バニーガール、チャイナドレス、ボンデージなど、実に多種多様な衣装が並んでいる。

これだけ揃っていれば、世の男性たちの様々な趣味嗜好にも、それなりに対応できるのではないだろうか。

しかし、私の感想は少々違う。

── あんなさん、可愛いなあ。

── そらさん、美しいなあ。

以上である。

衣装の感想を述べるはずが、いつの間にかコスプレモデルをしてくださっている二人のキャストさんを褒めて終わってしまっている。
これではコスプレの紹介にならないのだが、写真を見て最初に感じた事なのだから仕方がない。

そもそも、素敵な女性は何を着ても素敵なのである。

もちろん、衣装によって印象が変わる事は理解している。
普段とは違う格好をする事で意外な一面が見えたり、そのギャップに魅力を感じたりする事もあるだろう。

しかし、私の場合はどうしても衣装より、それを着ている女性に目が行ってしまう。
つまり、コスプレ一覧を見ているつもりで、実際には女性の写真を眺めているだけなのだ。

店のスタッフとしては、もう少し真面目にコスプレ一覧を見た方がいいのかもしれない。

 

◆ 人の数だけ性癖がある。

とはいえ、コスプレに興奮する男性の心理がまったく理解できない訳でもない。

例えば、女教師の衣装には学生時代の記憶や憧れが重なっているのかもしれないし、ナース服には優しさや包容力を、ポリスの制服には権威や命令といったイメージを求める人もいるのだろう。

衣装そのものというより、そこから連想される役割や関係性に魅力を感じているのだとすれば、M男として理解できる部分もある。

ただ、メイド服だけは少々ややこしい。
本来、メイドとは主人に仕える立場のはずなのに、M男の中にはメイドに命令されたいという人もいるのである。

雇用関係はどうなっているのだろう。
給料を払っている側が土下座をして、給料をもらっている側が偉そうに命令する。
そんな職場が実在したら、労働基準監督署より先に私が履歴書を持って駆けつけると思う。

もっとも、性癖というものに合理性を求める事自体が間違っているのかもしれない。

当店にはシスターや巫女といった衣装まで用意されている。
神聖な存在を前にして、なぜか煩悩を刺激されるというのだから、人間の想像力はなかなか恐ろしい。

シスターに懺悔したいという男性もいるのだろう。
もっとも、その男性が懺悔すべきなのは、シスターを見て興奮している事自体ではないかという疑問が残る。

さらに、童貞ニットという衣装まである。
名前からして随分と失礼な代物だが、どうやら男性の純情を一撃で粉砕する為に開発された兵器らしい。

そして、何を思ったのかスパイダーマンまである。
さすがに、これを着た女性にビルの谷間を飛び回ってもらおうとは思わないし、そもそもM性感のお部屋で世界平和を守る必要があるのかどうかも分からない。

一体、誰がこんな衣装を導入しようと考えたのだろう。

── 私である。

 

◆ スパイダーマンを導入した犯人。

実は、当店にスパイダーマンのコスプレを導入させた犯人は私なのだ。

私は昔からアメリカンコミックスが大好きで、スーパーヒーローの世界観には並々ならぬ愛着がある。
しかし、いくらアメコミ好きとはいえ、M性感店にまでヒーローを呼び込もうと考えたのには、それなりの理由がある。

── 全身タイツである。

あの身体にぴったりと密着する生地が、女性のボディラインをどれほど美しく描き出すか。
一般的な衣装がフリルやレースなどの装飾によって女性の魅力を演出するのに対し、全身タイツは余計な装飾に頼らない。
身体の曲線そのものを美しく見せるという、実に潔い設計思想を持っているのである。

しかも、スパイダーマンなら私の大好きなアメコミの世界観まで楽しめる。
これは素晴らしいではないか。
私は、その魅力を店長に熱くプレゼンした。

店長がどのような気持ちで話を聞いていたのかは知らないが、結果としてスパイダーマンの衣装は正式に導入された。

つまり、当店のコスプレラインナップには、一人のアメコミ好きのM男による個人的な美学が反映されているのである。

ところで、私は冒頭で何と言っただろうか。
── コスプレなんて、ただの布である。

そのはずなのに、私は布の密着具合について店長に熱弁を振るい、わざわざ新しい衣装を導入させてしまった。
しかも、単に自分の好みを語っただけではない。

当店のラインナップとして正式に採用されるところまで持っていったのだから、なかなかのプレゼンだったと言えるだろう。

ただし、プレゼン先は社外のお客様ではなく、社内の店長である。
自分の趣味を会社の経費で実現させたと考えると、少々聞こえが悪い。

もちろん、店長が了承した以上は正当なラインナップの導入であり、何ら不正を働いたわけではない。
念のため、ここは強調しておきたい。

 

◆ ところで、キョンシーである。

さて、そんな私がもう一着、個人的に強くおすすめしたい衣装がある。

── キョンシーである。

なぜ、キョンシーなのか。
そもそもキョンシーとは、中国の伝承などに登場する動く死体をモチーフにした存在であり、映画などでは両腕を前に突き出して、ぴょんぴょん跳ねながら移動することで知られている。

要するに、ゾンビの親戚みたいなものである。
私は映画などに出てくるモンスターとしてのゾンビは好きではあるが、死体に特別な性的魅力を感じているわけでもない。
ましてや女性に両腕を突き出して飛び跳ねてもらいたいなどと思ったこともない。

では、なぜキョンシーなのか。
衣装が可愛いのである。
特に、当店で用意しているキョンシーの衣装は、サイドがぱっくりと開いたデザインになっていて、その大胆な切り込みが女性の可愛らしさを実に上手く引き立てている。

全体としてはどこかコミカルで愛らしい印象なのに、身体のラインや脚の見え方には、ちゃんと女性らしい魅力がある。
このバランスが実にいい。

単純に露出が多ければいいという話でもない。隠すところは隠しながら、見せるところは見せるという、なかなか考えられたデザインなのである。

── 実に素晴らしい。

……おや?
私は今、何をしているのだろう。
コスプレには興味がないと言いながら、スパイダーマンでは布の密着具合を絶賛し、キョンシーでは布の切れ目について熱心に解説している。

どうやら私は、布そのものには興味がないくせに、布が身体に密着することと、布が存在しない部分には並々ならぬ関心があるらしい。

これでは単なる変態である。
いや、最初からそうだった。

 

◆ 結局、私は何が好きなのか。

ここまで書いて、ようやく一つの結論に辿り着いた。
私はコスプレという文化そのものには、それほど興味がないのだと思う。

ナースだから優しくしてほしいとか、女教師だから叱ってほしいとか、衣装によって特定の役割を演じてもらうことに、あまり魅力を感じないのである。

しかし、衣装が女性の魅力を引き立てることには、大いに関心がある。
つまり、私が見ているのは衣装が表現する職業やキャラクターではなく、それを着た女性の美しさなのだ。

そう考えれば、コスプレ一覧を眺めても「あんなさんは可愛いなあ」とか「そらさんは美しいなあ」という感想しか出てこない理由にも説明がつく。

そして、その女性の魅力を一層引き立ててくれる衣装として、スパイダーマンやキョンシーを評価しているのである。

もっとも、スパイダーマンの導入を店長に熱弁した時点で、コスプレに興味がないという主張には相当な無理があるのだが。

ともあれ、世の中には様々な性癖がある。
女教師に叱られたい人もいれば、メイドに命令されたい人もいる。
制服そのものに魅力を感じる人もいれば、私のように女性のボディラインを引き立てるデザインを好む人間もいる。

何が正しいという話ではないし、自分の好みを他人に押しつけるつもりもない。

当店には実に豊富なコスプレ衣装が用意されているので、お客様にはぜひ、ご自身の趣味嗜好に合わせて自由に選んでいただきたいと思う。

ただし、最後に一つだけお伝えしておきたいことがある。

お客様がコスプレの「おまかせ」を選択された場合、現場責任者の私がキャストさんにおすすめする衣装は、100%キョンシーとなります。

ご了承くださいませ。