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入れ換え不可な話。

by 中井

通勤が長いと、電車の中でたまに“妙に記憶に残る会話”に遭遇する。

普段の通勤電車は、だいたい圧縮袋。

みんな無表情。
スマホ。
虚無。
たまに咳。

そんな窮屈な車内も、土日だけは少し様相が変わる。

その日は日曜日だったので、車内もちょっと平和。
座席にも余裕があって、空気が少しだけのんびりしてた。

向かいには、お父さんと幼稚園くらいの男の子。

(どっか遊びに行くのかな?)

なんてぼんやり見てたら、突然、
「ねぇパパ。右の金玉と左の金玉って入れ換えられる?」

朝の電車で聞くには、なかなかパンチの強い質問。

周囲の空気も一瞬だけ「ん?」ってなる。

ただ、お父さんがすごかった。

全く慌てない。
ごまかさない。
笑わない。

ほんの数秒考えて、静かにこう言った。

「右の目ん玉と左の目ん玉、入れ換え出来るか?それと同じや」

……完璧。

説明が美しすぎる。

余計な言葉ゼロ。
変な医学知識もゼロ。
でも幼稚園児には100%伝わってる。

あまりにも完成度が高すぎて、思わずスタンディングオベーションしたくなった。

“相手が分かる言葉で説明する”

結局これが一番強い。
そして自分もこうありたいと思った。

今後の人生で、金玉入れ換え可能か聞かれた時はこう答えようと心に誓った。

そしてその日の夜。
左右の金玉を入れ換えようと試みたのは言うまでもない。

(おわり)