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カチカチを夢見る話。

by 中井

娘が『夢をかなえるゾウ』を読んでいた。
テーブルに置きっぱなしになっていたので「どれどれ」と思って少し借りてみた。

そもそもこういう自己啓発本って、ちょっと洗脳っぽくて嘘くさくて、わりと鼻で笑っていたジャンルだった。
成功者が出てきて「夢を持て!」とか言うヤツ、冒頭の表紙からして笑顔の歯が白すぎる。

ところがこの『夢をかなえるゾウ』読んでみると、これが意外と面白い。  
関西弁の神様が、わりと地味な課題をポンポン出してくる。

しかもその課題、めちゃくちゃ大きい夢の話じゃなくて、「人のいいところを見つけろ」とか「身近なことをちゃんとやれ」とか、妙に生活感のある話ばかり。
神様のくせに、言ってることがほぼ小学生の朝の会レベル。

読んでるうちに、ふと思った。
そういえば、自分も昔は「こうなりたいな」とか「こんなことやれたら面白そうだな」とか、そういう夢みたいなものをぼんやりと持っていた気がする。

気付けばまぁ、普通におっさんになった。

夢を叶えたかと言われると、自信を持って叶えたとは言えない。むしろ「夢」みたいなものはいつの間にかどこかに落としてしまい、日々を生きていくことに精一杯になっていた。

落とした夢はどこかのコンビニの駐車場で誰かに拾われ、今ごろメルカリで誰の目にもとまらないまま売れ残ってるかもしれない。
たぶん送料込み。

でも。

娘が読んでいる本を横からちょっと借りて読む。

そんな些細なきっかけで、「まぁ、もう一回くらい何か目指してみてもいいのかもしれないな」
そんな気持ちがふわっと立ち上がってきたりする。

かと言ってメルカリから自分の夢を買い戻すのはちょっと癪にさわる。
「いいね!」も付いてなかったし。

ただ、夢って若いうちだけじゃなく、おっさんが持っても別に怒られないはずだ。たぶん。

そう思っていたら、娘に聞かれた。

「叶えたい夢あるの?」

一瞬言葉に詰まる。

「恥ずかしがらなくていいじゃん」と言われたけど、別に恥ずかしいわけじゃない。

ただ、自分の新しい夢が、

【カチカチを取り戻すこと】

これを説明するのはさすがにちょっと難しい。


(おわり)